USドル 基軸通貨を持つべき理由
私たち日本人は日本で生活していれば当たり前に日本円を毎日使い、支払った金額に対するモノやサービスを手に入れるということができています。日々、経済や政治に色々なニュースは飛び交いますが、基本的には豊かな社会の中で暮らし、日本は先進国としての地位を確立させています。目の前の光景だけ見れば、明日の暮らしの心配はいらないでしょう。今回は、長期的な視野でかつ通貨という視点から日本や世界と向き合う機会を作ってみようと思います。
日本円の今後
世界的にみても現在の日本円の信用は決して低くありません。とはいえ、日本円はこの狭い国土である日本でしか使えません。
2016年、国際銀行間通信協会(SWIFT)によって発信された通貨別代金決済シェアでは、日本は3.4%でした。日本人の世界に占める人口率が2%弱なので当然の数字ではあります。
日本の人口は1950年には世界5位でしたが、現在は11位になりました。
少子高齢化も進み労働人口の減少は免れることはできず、日本経済は縮小していくと予測されます。
戦後、日本のものづくりは評価され、MADE IN JAPANの地位を確立するも、近年は韓国メーカーをはじめ諸外国企業にシェアを奪われつつあります。
さらに、日本の借金は1000兆円を超えたといわれています。にもかかわらず、年の国家予算は税収である約60兆円をはるかに上回る約97兆円で組まれています。借金は減る様子がありません。
ギリシャの経済破綻は記憶に新しいと思いますが、日本では絶対おこらない、と言い切ることができるでしょうか。
基軸通貨とは
基軸通貨とはその名前の通り「世界で基準となる通貨」のことです。
世界一の経済力、そして軍事力を持つ国の通貨が基軸通貨となる傾向にあります。
歴史的には19世紀半ばは英国ポンドが基軸通貨として扱われていました。
例えば貿易の場などで基軸通貨ぶりが発揮されます。
日本とアメリカとの貿易の時には、決済はUSドル。さらに、日本とブラジルとの貿易のときもUSドルが利用されているのです。
なぜブラジルとの貿易の際に、日本円でもブラジルレアルでもなくUSドルで取引がされるのか。一番信用度が高く安定しており、利用にも便利だからといえるでしょう
世界一の取引量
為替市場における通貨取引高のシェア(2016年)ベスト5が以下です。
USドル 43.8%
ユーロ 15.6%
日本円 10.8%
ポンド 6.4%
豪ドル 3.5%
為替市場において、圧倒的にUSドルとの取引が多いことがわかると思います。
取引される通貨ペアランキングは以下のようになっています。
USドル/ユーロ 23.1%
USドル/円 17.8%
USドル/ポンド 9.3%
USドル/豪ドル 5.2%
USドル/カナダドル 5.2%
USドル/中国元 3.8%
USドル/スイスフラン 3.6%
ユーロ/英ポンド 2%
USドル/その他通貨 20%
このように上位7位までを対USドルが占拠しています。そして、そこに入らない通貨とUSドルの取引がさらに20%存在しています。このように、USドルは基軸通貨として、世界中で取引されていることがわかります。
※BIS(国際決済銀行)のデータより作成
世界外貨準備高USドル割合が60%超え
外貨準備をご存知でしょうか。外貨準備とは、通貨当局が為替介入に使用する資金であり、急激な為替の変動を抑制するときや、通貨危機等により他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合などに使用する直ちに利用可能な準備資産のことを言います。
IMF(国際通貨基金)が2017年の終わりに発表した世界の外貨準備における通貨の割合が以下になります。
USドル 63.83%
ユーロ 19.93%
円 4.63%
ポンド 4.42%
中国元 1.08%
このように、USドルに対しての準備高は圧倒的な割合となっています。利用頻度が高いために、万が一にも大きな変動があったときには、それを抑制しようと各国が準備をしているということです。つまりUSドルは世界に守られ、信頼されている通貨といえます。
香港ドルのペッグ制
ここまで名前の出てくることがなかった香港ドルですが、香港ドルがもつ独特な仕組みについて解説します。
日本から近いオフショア地域として金融ビジネスを目的に訪れたことがある方もいると思います。
香港は正確に言えば中国の一部ですが、元イギリスの領地ということもあり中国元ではなく香港ドルが使用されています。
香港ドルは、USドルに対するペッグ制を採用しています。
ペッグ制とは固定相場制の一つで、特定の通貨と自国の通貨の為替レートを一定に保つ制度のことを言います。この制度はもともと、経済基盤の弱い国が自国の通貨レートを経済的に関係の深い大国の通貨と連動させることで、貿易や投資を円滑にし、経済を安定させることが目的でつくられた制度です。
なので、香港ドルのことを「基軸通貨」というと誤解が生じますが、基軸通貨であるUSドルと同じレートで動くという意味で、安定感のある通貨といえるでしょう。そういった意味で、対香港ドルのFXは実は人気があったりします。
基軸通貨のすごいところ
「アメリカの中の森がなくなる」というジョークを聞いたことがありますか?アメリカはリーマンショックの後、そんなジョークが出るほどにドルを増刷しました。本来、通貨の増刷は、物価や通貨の価値に影響を与えてしまうため慎重に行うものなのですが、それだけ増刷してもUSドルは大きく暴落することはありませんでした。
つまり、アメリカが「お金が必要」でも「お金がない」となったら、印刷すればほぼ同じ価値のままでお金がつくれてしまう、ということになります。
世界から守られているUSドルの基軸通貨としての価値がわかるエピソードのひとつです。
基軸通貨を保有するメリット=リスク分散
これまで、なんとなく外貨を持つことに良いイメージを持っていなかった方もいるかと思います。「レートは変動するから、損しそう」といったネガティブな印象があるかもしれません。
たしかにレートは変動します。下がれば上がりますし、上がれば下がります。この数秒の間にも変化しています。なので、ある程度短期的にお金を増やすことを目的としたFXなどは、細かく変動を読む必要があり、間違えば当然損にもなります。
しかし長期的な目線で、今日明日といったレベルではなく、「最近ちょっとドル高だね」というタイミングは日々のニュースの中からも読み取れます。例えば、定期預金などといった、ある程度置いておけるような形式の場合には、わざわざドル安の時に動かそうとしなければいいだけの話です。
長期的に保有することを考えると「日本円より圧倒的に世界的信用度が高い」ということが大きなメリットとなります。つまり、日本円だけを保持しているより、万が一、日本円が暴落したときや価値が大きく下がったときのためのリスクヘッジになるということです。
日本が万が一、金融政策で森がなくなるほど紙幣を発行すれば、日本円の価値は間違いなく落ちるでしょう。世界の通貨取引量が圧倒的に多いアメリカは、世界経済が動揺するような大きな変動は世界各国の銀行が抑制しようと動くために簡単には起こりません。それくらい、基軸通貨は安定しているということです。
いかがでしたでしょうか。外国の通貨となるとやはり日本円ほどの身近さがないがために、見えないものは手を出したくないと考えてしまうかもしれません。しかし、冷静に世界経済を見てみれば日本円よりも安定しているということがわかります。今日食卓に並ぶ食材の一部は当たり前に海外産でしょう。財布から出ていくお金は日本円ですが、その先で実はドル建てで貿易が行われているということが現実なのです。
冒頭で説明したように、人口の減少による日本経済の縮小は間違いありません。また、経済面でも心配がないとは言えません。いつか日本に何かあったとき(もちろんないことを願いますが)、USドルでおいておいた資産が救ってくれるかもしれません。ぜひ、この機会に考える機会を作っていただければと思います。